
副業を始めた理由としてもっとも多く挙げられるのは、収入に関する動機です。ただし同じ「お金」であっても、日々の生活費を補うためなのか、自由に使える余裕資金を増やしたいのかによって、選ぶべき仕事や継続の難易度は大きく変わります。
本記事では、公的統計や企業による調査データ、出典が確認できる実際の体験談をもとに、副業を始めたきっかけを体系的に整理します。あわせて、始める前に必ず確認しておきたい就業規則や税務の注意点についても解説します。
結論:きっかけの最多は「お金」が多いが、中身の分解が必要
複数の調査結果において、副業を始める理由の首位は一貫して収入面です。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した調査(2022年10月)によると、副業者1万1,358人のうち「収入を増やしたいから」と答えた人が54.5%、「1つの仕事だけでは収入が少なくて生活自体ができないから」と答えた人が38.2%にのぼりました(JILPT「副業者の就労に関する調査」)。
一方で、パーソル総合研究所の調査(2025年8月)では、収入補填を理由とする割合が以前の調査より減少傾向にあり、若い世代を中心に「好きな仕事への挑戦」や「スキルの力試し」といった自己実現寄りの動機が目立つ結果となっています。
自身の動機を整理する際は、次の3点を明確にしておくことが大切です。
- 生活費の不足を補うのか、生活にプラスする余裕資金が欲しいのか
- 現在の金銭的不足を解消したいのか、将来に向けた備えを作りたいのか
- スキルや趣味などお金以外の動機が強い場合、条件面より仕事内容を優先できるか
調査ごとに調査対象や集計基準が異なるため、単純に数値を足し合わせて全体の実施率を語ることはできません。まずはご自身の動機がどこに位置するのかを見極めましょう。
副業を始める人は増えているのか
国や民間企業の統計データを見ると、副業を実施する人は増加傾向にあります。
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」(2022年10月調査、2023年7月公表)によると、非農林業従事者のうち副業がある人は約305万人(副業者比率4.8%)となり、前回調査と比べて上昇しました。また、現在の仕事を続けながら追加で副業を希望する人は493万人に達しています。
民間調査でも同様の傾向が見られます。パーソル総合研究所の「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」(2025年8月)では、正社員の副業実施率が11.0%となり、同社の調査開始以来過去最高となりました。また、従業員の副業を認める企業の割合も64.3%に達しています。
さらに、マイナビの「ライフキャリア実態調査 2025年版」では、これまでに副業や兼業の経験がある人の割合は26.1%(2021年版は18.1%)に上昇し、今後副業を行いたいと考える人は47.7%でした。
このように実施率は増加傾向にありますが、調査によって「全国就業者ベース」「正社員限定」「アンケートモニター対象」といった母集団の差があります。数字の大きさだけに惑わされず、着実な準備を進める視点が欠かせません。
企業側の受け入れ体制も整いつつあります。マイナビ「中途採用実態調査 2025年版」では、副業を認める制度を持つ企業が72.5%でした。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、労働時間以外の使い方は原則として労働者の自由であるとし、企業に対して副業の原則容認に向けた検討を促しています。
調査データで見る「始めたきっかけ」
主な調査における副業の開始理由を整理した結果は以下の通りです。
| 調査名 | 調査対象・時期 | きっかけ・理由の上位回答 |
|---|---|---|
| JILPT「副業者の就労に関する調査」 | 18〜64歳の副業者11,358人(2022年10月) | 収入を増やしたい(54.5%)/生活ができない(38.2%)/活躍の場を広げたい(18.7%) |
| パーソル総合研究所「第四回 副業実態調査」 | 副業実施者(2025年8月) | 趣味に充てる副収入(62.6%)/本業収入では不十分(51.6%)/将来の収入不安(51.6%) |
| マイナビ「ライフキャリア実態調査2025」 | 15〜79歳の副業・兼業理由 | 生計維持(39.8%)/貯蓄・自由なお金(34.5%)/新たな知識・経験(16.6%) |
| lotsful「副業定点調査 2026春」 | 20〜40代会社員の副業意向者(2026年5月) | 自由に使えるお金(48.7%)/将来のキャリア(19.7%)/生活環境の変化(15.7%) |
| ビズヒッツ「主婦の副業に関する調査」 | 副業経験のある主婦381人(2025年7月) | 自分の小遣い(26.5%)/家計の足し(24.4%)/スキマ時間の活用(21.3%) |
JILPTの調査では、本業が正社員であっても「収入を増やしたい」という回答が59.1%を占めています。一方、「1つの仕事では生活できない」という切実な理由は、非正規雇用の43.9%に対し、正規雇用では31.6%と差が生じています。
また、マイナビエージェントが副業経験者248人を対象に行った調査(2024年10〜11月)でも、理由の最多は「本業の収入に満足していない」でした。キャリアアップや仕事内容への不満、得意分野の活用、将来への備え、スキマ時間の活用なども上位に挙がっています。
副業で得られる現実的な収入規模を把握しておくことも大切です。マイナビの2025年版調査では、副業の見込み年収として「5万円未満」が20.9%で最多となり、101万円以上の層(20.9%)と二極化しています。またマイナビエージェントの調査では、副業のみの年収が10万円未満と答えた人が63.1%を占めました。
始めた動機と実際の収入水準にはギャップが生じることもあります。高収入の事例だけを目標に設定するのではなく、動機に見合った現実的な目標を置くことが長続きの要因となります。
副業開始につながった5つの動機
副業経験者へのヒアリングや大規模調査から、開始の動機は大きく次の5つに分類できます。
1. 生活防衛型(本業の収入だけでは不足している)
物価高や家賃、仕送りなど、生活費そのものを補うことが目的の類型です。JILPT調査で「生活自体ができない」と答えた38.2%がこの層に該当します。
この類型では、本業と睡眠時間を削らずに週何時間稼働できるか、報酬が時間単位で確実に得られるかを確認することが重要です。立ち上げに数カ月かかるような成果報酬型の仕組みを、目先の生活費補填に充てるのは適していません。
マイナビのヒアリング調査(2023年12月公開)でも、本業の収入変動を補うため、確実な収入を求めて校正業務やデータ入力を始めた事例が紹介されています。
2. 余裕資金型(趣味や生活を充実させたい)
日々の生活は成り立っているものの、趣味や旅行、交際費、小遣いなどを増やしたいと考える類型です。パーソル総研の「趣味に充てる資金」(62.6%)や、lotsful調査の「自由に使えるお金」(48.7%)が当てはまります。
この類型では、生活に負担がかからない規模で小さく始めるのが適しています。得られる金額よりも作業負荷が上回ってしまうと、余裕を得るための副業が精神的な負担に変わってしまいます。ビズヒッツの主婦調査でも、「家族への旅行やプレゼントを自分のお金でまかないたい」という理由で始めた声が見られます。
3. 将来不安型(収入源の複線化と将来への備え)
現在は問題なく生活できているものの、将来の昇給停止や退職後への不安から始める類型です。パーソル総研の調査では将来の収入不安が51.6%に達し、JILPT調査でも「定年後に備える」が11.3%となっています。
マイナビエージェントのアンケートでも、「時代に左右されない収入源を持ちたい」「老後の居場所を確保したい」といった声が寄せられています。
この類型では、目先の時給よりもスキルや知見が資産として蓄積されるかどうかが判断基準になります。ただし、不安から過度な作業量を抱え込み、本業や健康を害しては本末転倒です。
4. スキル・キャリア型(経験の蓄積や転職準備)
本業以外の知識・経験の獲得や、能力の力試し、転職や独立の足がかりを目的とする類型です。パーソル総研の分析によると、特に20代において「本業でできない仕事に挑戦したい」「スキルが外で通用するか試したい」という動向が強く見られます。
マイナビのヒアリングでも、転職を見据えて実績作りとして受託案件に取り組む人や、資格を活かしてキャリア面談を始めた事例が挙げられています。
この類型では、報酬金額の高さよりも案件の内容そのものを優先して選択する傾向があります。なお、同調査では副業経験者の6.7%(20代では13.6%)が副業先へ転職したと回答していますが、副業が必ず転職につながるわけではない点には注意が必要です。
5. 趣味・自己実現型(好きなことを仕事にする)
イラスト制作、ハンドメイド、情報発信など、個人的な趣味や特技を収益化する類型です。スキマリサーチのインタビュー(2025年3月)では、メーカー研究員がSNSを通じてイラスト制作を受注した事例などが紹介されています。
好きだからこそ情熱を持って継続しやすい半面、趣味に納期やクライアントの要求が発生することで精神的な負担となる場合があります。純粋な楽しみを損なわない稼働バランスを事前に決めておくことが大切です。
経験者の体験談に見る理想と現実のギャップ
実際の副業経験者の声からは、成果だけでなく日々の課題や負担も見えてきます。
前向きな変化につながった事例
マイナビの取材事例では、本業の収入の波を埋めるために校正作業を始めた翻訳業の方や、将来の転職を見据えてブログ運営や広告制作を副業にした編集職の方の例が紹介されています。
また、スキマリサーチのインタビューでは、旅行費用の確保を目的にオンラインアシスタントを始めた20代会社員や、本業のプレゼンテーション力向上につなげる目的でデータ分析講座の講師を始めた30代会社員の事例が報告されています。個人ブログ等でも、将来の年収頭打ちを予測して早めに個人事業を立ち上げた体験談が公開されています。
負担や課題が生じた事例
一方で、時間の使い方や健康面での負担も生じています。
マイナビのヒアリングでは、納期に追われて家族に家事を頼らざるを得なくなったり、睡眠時間を削って対応したりしている実態が語られています。また、スキマリサーチの取材でも、在宅勤務の本業にハンドメイド販売を掛け合わせたところ、育児との両立が極めて過密になったという体験談が寄せられています。
マイナビエージェントの調査においても、副業のデメリットとして「ワークライフバランスの崩れ」や「確定申告の手間」が上位に挙げられています。実際にパーソル総合研究所の調査では、副業による過重労働で仕事に支障が出たり体調を崩したりした人の割合が26.9%に達しています。
前向きな動機から始めた場合でも、上限時間を設定しないまま業務を抱え込むと、生活の質や本業の基盤を損なう原因になります。
動機を言語化したあとに決めるべき判断軸
副業を思い立ったときは、特定の職種をいきなり選ぶのではなく、以下の3つの判断軸を先に整理すると無理のないスタートが切れます。
- 時間の提供形態:決まったシフトで働く「時給型」か、スキマ時間で納品を進める「成果物型」か
- 本業との事業距離:本業と関連性の高い分野か、まったく異なる別領域か
- 目標達成の定義:月いくら稼げれば十分か、あるいはどのような知見が得られれば成功とするか
株式会社VALUE FIRSTが実施した調査(2025年9月)によると、副業を選ぶ条件として「続けやすさ(時間や体力の負担)」を挙げた人が65.8%に達し、報酬額を重視した人の割合(14.8%)を大きく引き離しました。
また、マイナビエージェントの調査では、副業経験者の81%が「本業と無関係な分野」を選んでいます。本業と近い領域で副業を行う場合は、企業の競業避止義務や機密保持規程に抵触しないよう事前の配慮が必要です。
最初は短時間かつ小さな規模で取り組める案件から始め、生活リズムや業務負荷を見極めることが推奨されます。
始める前に必ず確認すべき4つの重要事項
副業を正式に始める前に、以下の4つの項目を確認してください。
1. 就業規則と社内届出
厚生労働省のガイドラインでは、労働時間以外の使い方は原則として自由とされているものの、労務提供上の支障や秘密保持、競業の制限、会社の信用維持の観点から制限される場合があります。まずは勤務先の就業規則を確認し、所定の届出を行ってください。
2. 労働時間と健康管理
雇用契約を結んで副業を行う場合、本業と副業の労働時間を通算して管理する法律上の義務があります。パーソル総合研究所の調査では、本業の残業と副業の合計時間が月45時間を超える人が約3割存在し、その半数以上が副業を勤務先に報告していない実態が明らかになっています。身体を休める時間を削らないよう、自ら上限時間を設定することが不可欠です。
3. 税金と申告手続き
国税庁の規定(タックスアンサー No.1900)によると、1か所から給与の支払いを受けている会社員で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計が年間20万円を超える場合、所得税の確定申告が必要になります。
ここで言う基準は売上や「収入」ではなく、必要経費を差し引いた「所得」の金額です。「20万円以下なら完全に非課税」という意味ではありません。所得税の確定申告が不要な場合でも、別途お住まいの自治体に対して住民税の申告が必要になるケースがあります。申告手続きの要否や受付窓口については、お住まいの市区町村の最新案内をご確認ください。
4. 本業への影響とコンディション
副業に取り組む人の未実施理由としてもっとも多いのは「本業が忙しい」という点です。本業が繁忙期にある時期や、体調面に不安がある時期に無理に始める必要はありません。本業という基盤を守ることが、長期的な選択肢を広げるための土台となります。
副業のきっかけに関するよくある質問
副業を検討している方からよく寄せられる疑問について回答します。
お金だけが動機でも始めて問題ありませんか?
問題ありません。各種調査でも半数以上の人が収入を主な理由に挙げています。ただし、生活費の不足を補うためなのか、余裕資金を増やすためなのかを整理し、週あたりの稼働上限を決めておかないと消耗につながりやすくなります。
正社員で副業をしている人は少数派でしょうか?
パーソル総合研究所の調査における正社員の副業実施率は11.0%です。制度として容認する企業は増えていますが、全社的に過半数が取り組んでいるわけではありません。周囲の動向に焦らず、ご自身の必要性に応じて検討してください。
会社に報告せず内緒で進めることはできますか?
就業規則で届出が義務付けられている場合、無断で進めることは本業における懲戒や労使間の信頼毀損のリスクを伴います。本業の基盤を守りながら長く続けるためにも、会社のルールに従って正規の手続きを踏むことをおすすめします。
動機が曖昧なまま始めても続けられますか?
短時間の単発作業を試すことは可能ですが、目的が定まっていないと作業量に対して割に合わないと感じて挫折しやすくなります。まずは「月2万円を趣味に充てる」「将来に向けてWebライティングの実績を作る」など、具体的な目的を言語化してから案件を探すのが確実です。
まとめ:自分のきっかけを1文で言語化してみる
副業を具体的に進める前に、ご自身の動機を次の形式で一度言語化してみてください。
「自分は(生活防衛/余裕資金/将来不安/スキル/趣味)を目的に、週に( )時間まで稼働し、(いつまでに)(どのような成果が得られれば)十分とする。」
この1文が整理できたら、就業規則の確認や稼働時間の試算、税務のルールの確認へと進んでください。もし現時点でうまく言語化できない場合は、無理に今すぐ副業を始めず、本業や生活リズムを整える期間に充てるという判断も有効です。副業は人生の選択肢を広げる手段の一つであり、健康や本業の信頼を損なわない範囲で賢く活用していきましょう。
参考にした主な情報
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」
- パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」
- JILPT「副業者の就労に関する調査」調査シリーズNo.245
- マイナビキャリアリサーチLab「副業とは?若者・学生の意向など現状と実態をマイナビ調査から解説」
- マイナビキャリアリサーチLab「副業経験者に聞いた」ヒアリング
- マイナビ「中途採用実態調査 2025年版」
- lotsful「副業に関する定点調査(2026春)」
- lotsful「副業に関する定点調査(2025冬)」
- ビズヒッツ「主婦が経験したことのある副業」調査
- VALUE FIRST「副業」調査(マイナビニュース掲載)
- 厚生労働省「副業・兼業」公式ページ
- 国税庁タックスアンサー No.1900
- スキマリサーチ公式インタビュー
- tsutsu「40代で年収頭打ち」エッセイ(2026年8月28日)