キャリアアップ目的で退職を検討する前に確認すること|年収が増える転職者は約4割にとどまる現実

キャリアアップ退職を検討する前に知っておくべき年収や実務上の現実と判断基準を提示する記事のアイキャッチ画像
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キャリアアップを目的とした退職は、自身の市場価値や専門性を高めるための前向きな選択肢の一つです。しかし、退職して転職すれば必ず待遇や環境が向上するわけではありません。

退職を申し出る前に、年収・専門性・役職・働き方のどれを伸ばすための移動なのかを明確にし、退職に伴う生活面や手続き上のリスクを客観的に把握しておく必要があります。

目次

この記事の結論

  • 転職によって賃金が増加する人の割合は40.8%にとどまり、31.0%は減少しています。
  • 年代が上がるほど賃金増加の割合は低下し、50代前半では賃金が減少する人の割合(42.0%)が増加(29.4%)を上回ります。
  • 上司への退職交渉と転職先の採用面接では伝えるべき目的が異なり、前者は業務引継ぎの日程、後者は次期職務で広げる実績を主軸にします。
  • 期間の定めのない雇用契約では原則2週間前の申入れで退職可能ですが、実務上は就業規則の確認と引き継ぎ計画の共有が不可欠です。
  • 自己都合退職による雇用保険の基本手当は、離職日が令和7年4月1日以降の場合、原則として7日間の待期後に1か月の給付制限期間が生じます。

キャリアアップ退職の背景と賃金データ

キャリアアップとは、専門的な技能や職務経歴を従来より高い水準へ引き上げる取り組みを指します。年収の上昇、管理職への昇格、担当業務領域の拡大などは、同時に満たされる場合もあれば、トレードオフとなる場合もあります。

厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」によると、直前の勤め先を離職した理由の81.3%が自己都合でした。その具体的な内訳(3つまでの複数回答)は、「賃金が低かった」(25.5%)、「会社の将来に不安を感じた」(25.2%)、「満足のいく仕事内容でなかった」(24.7%)が上位を占めています。一方、現在の勤め先を選んだ主な理由は、「仕事内容・職種に満足がいくから」(40.2%)、「自分の技能・能力が活かせるから」(38.4%)が高く、「キャリアアップできるから」は16.6%(一番の理由としては6.4%)でした。
また、厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」における転職入職者の賃金変動状況を見ると、前職と比べて賃金が増加した割合は40.8%、減少した割合は31.0%、変わらない割合は25.5%となっています。

同調査における年代別の賃金増加割合は以下のとおりです。

  • 20〜24歳:55.2%
  • 25〜29歳:49.8%
  • 30〜34歳:48.6%
  • 35〜39歳:43.5%
  • 40〜44歳:44.9%
  • 45〜49歳:41.1%
  • 50〜54歳:29.4%(減少は42.0%)

若年層では約半数が賃金を伸ばしているのに対し、40代以降は増加割合が4割程度に落ち着き、50〜54歳では減少が増加を大きく上回る傾向が示されています。

なお、民間転職サービスであるパーソルキャリア「dodaエージェントサービス利用者の転職理由・年収動向」などの集計では、転職成功者の64.1%が年収アップし、増加者の平均増加額が109万4,383円という公表も見られます。ただし、これはエージェントサービスを介してマッチングが成立した母集団の数値であり、転職者全体の公的統計とは前提が異なる点に留意する必要があります。

状況別に見る現職残留と退職の比較

現職にとどまる場合と、退職して新たな環境へ移る場合の差異を整理します。

比較項目現職に残る場合退職して転職する場合事前確認事項
年収の推移既存の給与規定・評価に基づく昇給提示年収による(増加40.8%、減少31.0%)基本給・固定残業代・賞与算定基準の内訳
専門性の習得既存業務の延長または部署異動新たな職務環境での実務経験求人票の職務記述と入社後の評価指標
選択肢の確保社内公募・副業の活用余地外部市場での職歴形成就業規則の副業規定や異動希望の通りやすさ
生活防衛資金継続的な給与収入の維持空白期間の発生リスクと待期・給付制限離職前2年間に通算12か月以上の被保険者期間があるか
職場との関係築いた信頼関係と業務基盤の維持ゼロからの人間関係構築と引継ぎ完了有給休暇の残日数と後任への引継ぎ所要期間

同調査によると、企業側が中途採用者の賃金を決定する際に最も重視した要素は「これまでの経験・能力・知識」(38.4%、考慮した割合は59.2%)でした。管理職採用においては60.7%、専門的・技術的職業においては64.1%の企業が採用理由に「経験を活かし即戦力になること」を挙げています。単なる熱意ではなく、過去の実績が具体的に次の組織で活きるかどうかが客観的な処遇を左右します。

実践手順と退職意思の伝え方

退職を円滑に進め、転職先での経歴に繋げるための実践手順は以下のとおりです。

  1. 新しい職務内容と労働条件を書面で確定させる
    内定通知書や労働条件通知書を受領し、提示年収の内訳(固定給、時間外手当の算定、賞与実績)や業務範囲を確認します。
  2. 直属の上司へ口頭で退職の意向を伝える
    意思表示は書面を提出する前に、直属の上司へ個別面談を申し入れて直接伝えます。会社や組織への不満、個人的な感情論は交えず、感謝と業務引継ぎの意思を明確にします。

上司への伝達文例:
「これまでのご指導に深く感謝しております。このたび、自身の専門性をより広げるため、〇〇業務に専念できる環境へ挑戦することを決意いたしました。つきましては、〇月〇日付での退職を希望いたします。最終出社日までに後任への引継ぎを責任を持って完了させます。」

  1. 退職届の提出と有給休暇の消化日程を調整する
    日本労働組合総連合会「労働相談Q&A」によると、撤回の余地を残す「退職願」に対し、「退職届」は確定的な労働契約解約の通知として扱われます。提出後は、有給休暇の残日数を確認し、業務引継ぎ完了日と最終出社日のスケジュールを確定させます。
  2. 転職先の面接では職務の広がりを論理的に説明する
    採用面接で退職理由を問われた際は、前職の否定ではなく、自らの保有スキルを次の職務でどう発展させるかを説明します。

面接での説明文例:
「現職では〇〇の分野において実務を担当し、△△という成果を上げてまいりました。今後はより上流の企画立案から実行支援までを一気通貫で担当したいと考えておりますが、現職の事業体制ではその領域に踏み込むことが難しいため、今回新たな挑戦を決意いたしました。」

引き止めにあった場合は、提示された条件が口頭の約束にとどまるものか、正式な職務変更通知として提示可能なものかを見極める必要があります。

法的手続きと自己都合退職の注意点

退職に伴う法的な原則と、退職後の経済的コストを把握しておくことが重要です。

民法上の規定と就業規則の関係

期間の定めのない雇用契約において、労働者側からの解約申入れについて、大阪労働局「よくあるご質問(労働条件・賃金関係)」では、民法第627条第1項に基づき申入れから2週間が経過することで雇用が終了すると解説されています。会社側の承諾が得られない場合であっても、法律上の効力は発生します。
ただし、月給制契約における申入れ時期の解釈(民法第627条第2項)や、就業規則上の事前申出期間(「1か月前までに申し出ること」など)との関係については、茨城労働局「労働基準法等に関するQ&A」において、規則の効力や強行規定の適用をめぐる諸説・裁判例が示されており、一律の断定はできません。無用なトラブルを防ぐためにも、原則として社内規程の定めに沿った手続きを進めることが推奨されます。法的な争訟が生じる恐れがある場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや弁護士・社会保険労務士などの専門窓口へ相談してください。

有給休暇の取得と退職金の確認

年次有給休暇の利用目的は労働者の自由であり、退職日までの期間に消化することは権利として認められています。ただし、業務の円滑な移行を果たすためには、引継ぎ計画と消化日数を事前に会社と共有することが実務上重要です。

退職金の支給義務は法律上定められておらず、就業規則や退職金規程の有無によって決まります。自己都合退職の場合、勤続年数に応じた支給率の減額規定が設けられている事例が多いため、事前の就業規則確認が必要です。なお、労働基準法第23条により、退職者の請求があった場合、使用者は原則として7日以内に権利者の賃金を支払わなければなりません。

雇用保険の基本手当における給付制限

離職票に基づきハローワークで受給手続きを行う雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)は、自己都合退職の場合に受給要件と給付制限が発生します。厚生労働省「離職されたみなさまへ(雇用保険の給付案内)」によると、受給には原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが求められます。
離職日が令和7年4月1日以降の場合、正当な理由のない自己都合離職に対する給付制限期間は原則1か月(待期期間7日の経過後)です。ただし、直近5年間で2回以上自己都合による受給資格決定を受けている場合や懲戒解雇の場合は3か月となります。また、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講する場合などには給付制限が解除される特例が存在します。所定給付日数や日額の詳細は個人の年齢・賃金・算定基礎期間によって異なるため、管轄のハローワーク窓口で確認してください。

キャリアアップにつながらない退職の典型例

単に「キャリアアップ」という呼称を用いたとしても、次のような退職行動は自身の市場価値向上に結びつきにくい傾向があります。

  • 次の職務で担う業務内容を言語化できず、現職への不満解消のみを動機として退職を決めること
  • 転職先から交付される内定通知書や雇用契約条件の書面を確認しないまま、現職に退職日を伝えてしまうこと
  • 年齢に応じた市場相場を精査せず、提示年収の減少や実務領域の縮小を伴う転職を安易に受け入れること

厚生労働省の転職者実態調査でも、転職理由として「キャリアアップできるから」を最優先に挙げた人は6.4%にとどまります。大半の労働者は、自らの具体的な技能が合致するか、希望する仕事内容に携われるかを基準に選択しています。名目上の肩書ではなく、実質的な職務の獲得が伴わない移動は、キャリアの停滞を招く恐れがあります。
なお、建設業の技能者を対象とした「建設キャリアアップシステム(CCUS)」における就業履歴蓄積や事業者変更手続きは、個別のシステム運用規程に基づく別制度であるため、本記事の対象外となります。

よくある質問

Q. 内定が決まる前にキャリアアップを理由として退職しても問題ありませんか?

内定獲得前の退職は、職歴の空白期間や生活費の枯渇を招くリスクが高いため、原則として推奨されません。自己都合退職では雇用保険の待期期間および給付制限期間が発生し、無収入の期間が生じます。転職活動が長期化すると、条件面での妥協を余儀なくされ、結果として市場価値を損なう要因となります。特別な事情がない限り、次の就業先を確定させてから退職手続きに進むことが賢明です。

Q. 上司から強い引き止めを受けた場合はどう対処すべきですか?

引き止めへの対応では、提示された内容が「昇給や昇格の口約束」にとどまるか、「書面による職務権限の付与」であるかを見極めます。現職で希望する業務を担える見込みがない場合は、謝意を示しつつ退職の確定意思を伝え、引継ぎ日程の協議へ話題を移行させます。民法上、期間の定めのない契約であれば労働者からの解約申入れは有効であるため、感情的な対立を避け、客観的な業務移行計画に注力してください。

まとめ

キャリアアップを目的とした退職を成功させるためには、退職理由の体裁を整えることよりも、次の職務で獲得できる実務経験と提示条件の精査が先決です。

まずは自身の職務経歴書を見直し、次の環境で新しく獲得したい業務実績を一文で書き出してみることから始めてください。

参考資料・出典

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この記事を書いた人

人事系コンサルタントとして20年、企業組織の課題解決や個人のキャリア構築に携わる。個人投資家としても20年の経験を持ち、ファイナンシャル・プランナー(FP)、知的財産管理技能士の資格を保有。
ライフアセットラボでは、「会社に依存しない個人の自立」を支援する情報を発信。人事コンサルティングで培った分析力と、投資経験による長期的な視点を生かし、副業、キャリア、資産形成、健康を人生の資産として捉え、多面的に考察します。一次情報と実体験を重視し、メリットだけでなく注意点も含め、読者が自分に合った選択を冷静に判断できる情報提供を目指しています。

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