副業を始めたきっかけとして最も多く挙げられるのは、収入に関する理由です。ただし同じ金銭目的であっても、目先の生活費を補うためなのか、趣味や自己投資に充てる資金を増やしたいのかによって、選ぶべき作業内容や持続可能なペースは大きく異なります。
この記事では、公的統計や各種実態調査、出典の明らかな体験談をもとに、動機を整理する軸と開始前に確認すべき実務上の注意点をまとめました。特定の副業による高収入を約束したり、安易な開始を推奨したりするものではありません。
この記事の結論
- 副業を始める動機の過半数は収入ですが、生活防衛と余裕資金のどちらを目指すかによって選ぶべき形態は分かれます。
- 正社員の副業実施率はパーソル総合研究所の調査で11.0%であり、誰もが実践しているわけではないため、焦って始める必要はありません。
- 継続の最大の鍵は時給の高さよりも時間と体力の負担であり、週に充てられる上限時間をあらかじめ決めることが不可欠です。
- 本業先の就業規則や届出義務、年間20万円超の所得に対する確定申告ルールを事前に確認しないと、信用や健康を損なう恐れがあります。
調査データに見る副業の動機と実態
副業を始める人がどのような理由で動き出しているのか、複数の調査から確認できます。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表した副業者の就労に関する調査によると、副業をしている人の理由として「収入を増やしたいから」が54.5%で最も多く、「1つの仕事だけでは生活自体ができないから」が38.2%と続いています。
一方で、パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」では、理由の上位に「副収入(趣味に充てる資金)を得たい」(62.6%)、「本業の収入だけでは不十分」(51.6%)、「将来的な収入に不安」(51.6%)が並びました。20代においては「好きな仕事が本業でできない」「スキルが他でも通用するか試したい」といった、自己実現や実力試しを挙げる割合が相対的に高くなっています。
マイナビ ライフキャリア実態調査 2025年版の解説でも、生計維持が39.8%であるのに対し、貯蓄や自由に使えるお金の確保が34.5%を占めており、生活費の穴埋めだけではない広がりが見られます。
| 調査名 | 主な対象と調査時期 | 主な動機・理由 |
|---|---|---|
| JILPT 調査シリーズNo.245 | 18〜64歳の副業者1万1,358人(2022年10月) | 収入増 54.5%、生活維持 38.2%、活躍の場拡大 18.7% |
| パーソル総合研究所 第4回 | 全国の副業実施者(2025年8月) | 趣味等の資金 62.6%、本業収入不足 51.6%、将来不安 51.6% |
| マイナビ ライフキャリア実態調査 | 15〜79歳の男女(2025年版) | 生計維持 39.8%、貯蓄・自由資金 34.5%、知識・経験 16.6% |
| lotsful 定点調査 | 20〜40代会社員の副業意向者(2026年5月公表) | 自由に使えるお金 48.7%、将来のキャリア 19.7% |
| ビズヒッツ 主婦の副業調査 | 副業経験のある主婦381人(2025年7月) | 自分の小遣い 26.5%、家計の足し 24.4%、スキマ時間 21.3% |
実施率についても客観的な数値を押さえる必要があります。総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」によると、非農林業従事者のうち副業がある人は約305万人で、副業者比率は4.8%でした。パーソル総合研究所の2025年調査における正社員の実施率も11.0%にとどまっており、社会全体で急増している印象があっても、大半の会社員は副業を行っていません。
得られる金額についても冷静に見極める必要があります。マイナビエージェントの副業実態調査では、副業のみの年収が10万円未満と回答した人が63.1%に達しています。lotsfulの定点調査結果でも、副業による月収が5万円未満の層が32.2%を占めています。高額な副収入をうたう事例はごく一部であり、多くの人は月数千円から数万円の範囲で取り組んでいます。
動機の違いによる5つの分類と適性
副業のきっかけは、大きく5つに分類できます。自身の動機がどこに近いかを把握することで、選ぶべき働き方や確認すべき条件が明確になります。
1. 生活防衛型
家賃や食費、物価高への対応など、現在の生活費の不足を補うことが動機です。
この動機では、作業した時間に対して確実に報酬が支払われる形態が向いています。一方で、成果が出るまで数カ月以上無報酬が続くようなストック型の作業を、当月の生活費補填に充てるのは適していません。睡眠時間や本業のパフォーマンスを削らない範囲で、週に何時間まで充てられるかをあらかじめ計算しておく必要があります。
2. 余裕資金確保型
生活自体は成り立っているものの、趣味、旅行、交際費、自己投資など、自由に使えるお金を増やしたい動機です。
この動機では、いつでも休止や縮小ができる柔軟な形態が適しています。ノルマが厳しすぎる案件や過密な納期を抱えると、精神的なゆとりを得るための活動が新たなストレス源になります。負担感が報酬の満足度を上回らない範囲に抑えることが大切です。
3. 将来不安対策型
現在は問題ないものの、将来の昇給の鈍化や退職後の生活資金に不安を感じ、収入源を複数持っておきたい動機です。単なる時間の切り売りよりも、経験や実績が蓄積される作業が向いています。ただし、不安に駆られて過剰な作業量を抱え込み、健康を損なうケースが少なくありません。パーソル総合研究所の調査でも、副業による過重労働で仕事に支障が出たり体調を崩したりした人が26.9%に達しています。無理のないペース配分が前提となります。
4. スキル・キャリア形成型
本業では得られない知見の獲得、自身のスキルの腕試し、将来的な転職や独立に向けた助走を目的とする動機です。
目先の報酬単価よりも、業務内容そのものが目的達成につながるかを基準に案件を選びます。パーソル総合研究所の調査によれば、副業経験者の6.7%(20代では13.6%)が副業先へ転職した経験を持っています。ただし、本業の就業規則に抵触しないよう、競業避止義務や守秘義務の範囲を事前に確認することが欠かせません。
5. 趣味・自己表現型
イラスト制作やハンドメイド、特技の発信など、自身の好きなことや関心のある分野を収益化したい動機です。
やりがいを感じやすい一方で、対価が発生することで納期管理や顧客対応の責任が生じます。趣味そのものを苦痛に感じてしまわないよう、受注量や公開頻度に一定の制限を設けて取り組む姿勢が求められます。
体験談から見る成功点と現実的な負担
公開されている調査記事やインタビューから、副業を開始した人の実態と直面しやすい課題を紹介します。
マイナビキャリアリサーチLabのヒアリング調査では、本業の編集職から将来のキャリアを見据えてWeb制作や広告運用の副業を始めた事例や、本業の収入の波を埋めるために校正作業を開始した事例が紹介されています。また、スキマリサーチのモニター取材記事では、IT企業の事務職が旅行資金を確保するためにオンライン秘書業務を始めた例や、メーカー研究職が特技を活かしてイラスト制作を受注した例が挙げられています。
一方で、同じ調査の中では両立に伴う負担についても言及されています。校正業務を行う担当者は、納期対応のために睡眠時間を削ったり家族に家事を代行してもらったりする実態を語っています。ハンドメイド販売を手掛ける担当者も、在宅勤務や育児との両立が想像以上に過密になったと述べています。
副業を始めた人の多くが、時間のやりくりや健康管理、煩雑な事務作業に直面しています。ポジティブな動機だけで見切り発車せず、日々の生活にどれだけの余白があるかを客観的に見極める必要があります。
行動を起こす前の確認手順
副業を具体化させる際は、以下の実務的な手順を踏んでリスクを抑えます。
- 本業先の就業規則と届出要領の確認
厚生労働省が公表している副業・兼業の促進に関するガイドラインの解説では、労働時間外の活用は原則として労働者の自由とされつつも、労務提供上の支障や秘密漏洩、競業が生じる場合は制限され得ると明記されています。自社の規定で許可制なのか届出制なのかを必ず確かめてください。 - 週間スケジュールによる時間の確保
睡眠時間や本業の残業時間を除いたうえで、無理なく捻出できる実質稼働時間を算出します。初期段階では週3〜5時間程度から開始し、生活リズムが崩れないか様子を見るのが堅実です。 - 業務形態とプラットフォームの選定
動機に応じて、知人の紹介、クラウドソーシング、スポット求人など適切な窓口を選びます。高額な初期費用や教材購入を求められる案件は避け、小規模な実績作りから進めます。 - 税務管理の準備
給与所得者が1か所から給与を受けている場合、給与・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超えると所得税の確定申告が必要になります。詳細は国税庁タックスアンサー No.1900で規定されています。基準は収入ではなく、収入から経費を差し引いた「所得」である点に注意が必要です。なお、所得税の申告が不要な金額であっても、住民税については各市区町村への申告が必要となる場合があります。
始めるべきではないケースと主なリスク
どのような状況でも副業が推奨されるわけではありません。以下のような場合は、副業を開始すべきではありません。
- 本業の残業が多く、睡眠時間や休息が削られている場合
- 本業先の就業規則で副業が明確に禁止されている場合
- 借金の返済など極度の金銭的困窮から、短期間での高額収入を求めている場合
- 税務申告や契約内容の管理を自分で行う意欲がない場合
特に健康状態の悪化は、本業の収入基盤そのものを脅かします。余裕がない時期には「副業をしない」と判断することも、個人の生活資源を守るための賢明な選択です。
よくある質問
Q. 副業を始める動機がお金だけでも問題ありませんか?
動機がお金だけでも問題ありません。各種調査でも半数以上が収入の増加や補填を理由に挙げています。ただし、生活費の不足なのか余裕資金の確保なのかを整理し、必要な金額と割ける時間のバランスを事前に決めておくことが重要です。
Q. 正社員で副業をしている人はどの程度いますか?
パーソル総合研究所の2025年調査では、正社員の副業実施率は11.0%です。総務省の基幹統計でも副業者比率は全体の5%前後にとどまります。決して多数派ではないため、周囲の動向に流されず自身の状況に合わせて判断してください。
Q. 副業収入が20万円以下であれば税金の手続きは一切不要ですか?
所得税の確定申告は不要になるケースがありますが、住民税の申告は自治体ごとに必要となる場合があります。また、確定申告が不要となる基準は「収入」ではなく「所得(収入から必要経費を引いた金額)」です。
Q. 会社に知られずに副業を行う方法はありますか?
就業規則や住民税の納付手続きの仕組み上、本業先に完全に知られないように活動することは現実的ではありません。トラブルを防ぐためにも、会社のルールに従って正規の手続きを踏むことが原則です。
まとめ
副業を始めたきっかけで最も一般的なのは収入ですが、動機が生活維持なのか、余暇資金なのか、将来の備えやスキル習得なのかによって、取るべき選択肢は異なります。まずは就業規則を確認し、週に無理なく充てられる時間を1時間単位で計算することから始めてみてください。
参考資料・出典
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」
- パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「副業者の就労に関する調査」調査シリーズNo.245
- マイナビキャリアリサーチLab「ライフキャリア実態調査 2025年版」解説コラム
- マイナビキャリアリサーチLab「副業経験者9人ヒアリング」
- マイナビエージェント「副業経験者248人アンケート調査」
- パーソルイノベーション lotsful「副業に関する定点調査 2026春」
- ビズヒッツ「主婦の副業調査(PR TIMES公表資料)」
- 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
- 国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」
- スキマリサーチ「副業モニターインタビュー」

